巧が作るたわし
原料は昔ながらのシュロが一番「ねじり」に技と勘が冴える。
たわしは感じで「束子」と書く。この字は、まだ亀の子たわしが生まれる前、藁を束ねて洗い物に使っていた時代の名残らしい。
シュロはヤシ科の常緑高木で、幹の周りを覆う繊維が原料となる。パームはヤシの実の殻を利用したもの。シュロは中国産、パームはスリランカ産がほとんど。
たわしは明治四十年縄などをつくる職人だった西尾正左衛門によって考案され、「亀の子たわし」の名で全国に広まった。当時の原料はシュロ。しかし近年は、パームや化学繊維が主流だ。「私がつくるたわしの九割以上はシュロが原料です。シュロが一番いいですね」。シュロは柔らかくて弾力性があるうえ腰も強く、長持ちするという。
たわしづくりは今でも手仕事だ。巻き台という簡単な構造の機械に二つ折りにした太さ二ミリの針金を取り付け、その間に五センチほどの長さに切ったシュロの束を挟む。シュロの厚さを均一に手で均し、ハンドルを回して巻き上げると棒状のたわしができる。さらに苅込機で表面を整え、真ん中で曲げて楕円形にし、両端から飛び出している針金を締め輪にして完成。
たわしによっては、周りにかけ縄を回すものもある。一個仕上げるのに約五分。作業は簡単そうに見える。すると横から「簡単に作っているように見えるでしょう。腕のいい職人ほどそう見えるんですよ」と、よきパートナーである弟の誠二さん。巻き台のハンドルを回す工程を「ねじる」というのが、このねじりがポイントだ。ねじり過ぎると針金が切れ、ねじり方が少しでも甘いと締まりの無いたわしになってしまう。「ねじり回数?勘だよ」。シュロが、技術的にもっともねじりにくいという。「中心に指が入らない、ねじった針金が見えない、芽付き(シュロの密集度)がよい」ことが、良いたわしの条件、
ちなみにシュロたわしは、パームに比べて四~五倍は値段が高い。